家を建てるコトと家を買うコト  



 つい数時間前の話です。現場監理から帰る途中、ちょうど安倍川沿いを南下する頃でしょうか。カーラジオから流れる番組での一瞬の言葉に、ハッとさせられました。車中ではAMラジオを聞く事が多いです。静岡ならばSBS静岡放送、神奈川ならばラジオ日本、東京ならばニッポン放送文化放送・TBS、京都ならばKBS京都・・・といったように。特に静岡では、故郷を離れた間の空白を埋めるような気持ちで1404HZにチューニングをあわせてしまいます。


 時刻は10時過ぎ。相談者の一言です。「これまで私は一生懸命努力してきて、そしてついに家を買いました・・・」


 ドキっとしました。「えっ? 家って買うモノなの? 建てるモノじゃないの?」というのが、私の瞬間的な印象です。我々は日常、クライアント(お客様)の要望を聞いてプランを練り、図面・模型を作成して納得いただき、建築費を提示した上で施工する「フル・オーダー・スタイル」の住宅建設を担う立場の人間ですから、「家=建てる・つくる」という事が当然と思い込んでいました。ただ、少し冷静になって考えると、マンションなどの分譲型集合住宅や建売住宅では「買った」という表現になるのは当然ですし、もっと冷静になって考えると・・・私の住まいは賃貸マンション・・・つまり家を「借りて」います(笑)。


 番組中、先の相談者がどのような住まいを購入されたかは明らかになりませんでした。建売住宅や、分譲マンションに暮らしているのであれば、先の発言はもっともです。但し、フル・オーダーで建てた注文住宅を「買った」と表現されたとすれば・・・少し複雑な気分になりそうです。それほど重いレヴェルではないのですが、でも気になります(笑)。


 クライアント(お客様)が作り手の一翼を担うと考えるならば、「建てた」・・・でも出資者という立場を考えると「買った」・・・どちらも正しいです。ただ、注文住宅を担当する設計者・施工者としては、クライアントに「自分の家を建てた」と言われる方が嬉しいものです。ちょっとした一言ですが、建築の達人(エキスパート)の心をくすぐるために、覚えておいてよいことかもしれません。

(文:久保田正一

■写真 : 家は、みんなで作ります。大工さんも作ります(笑)。AO邸(静岡県藤枝市)




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