【総括】中学生からの10の質問 10の回答


10の質問 10の回答・・・ 読みやすくなるよう 総括・再掲いたします。

以下 ご覧くださいませ。


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■質問1■
どんな思いで日々仕事をしているのですか。


□回答1□
人それぞれ違うと思います。
プラス志向の人であれば早起きして気合いを入れてから立ち向かう人もいるでしょうし、気が済むまでじっくり夜中まで打ち込む人もいるでしょう。
最近は早朝にカルチャースクールに行き、仕事とは別の教養を身につけてから出勤するという前向きな方もいます。
その一方、毎日を「こなす」という意識で過ごすマイナス志向の持ち主は時間ばかりを気にするもの・・・
私はと言いますと・・・「感情の起伏を少なくすること」を最重要視しています。
サッカー日本代表の長谷部選手の言葉を借りるならば「心を整える」ということですね(笑)。
建築という仕事は、モノを扱いながらも その根本は人と人の相互理解が基本となります。
「こうすべきである」という提案を「なるほど」と理解してもらう その説明が どれだけ理にかなったものかを示すため、感情を律しながら伝え、受けとめることが大切です。

(追記)
大人になっても年下の発言・挙動に学ぶことがあります。
これができるか否かによって 人間関係の広がりが変わります。
ひいてはビジネスチャンスのレンジも違います。
皆さんは現在、中学生として「学ぶ」立場であることを日々実感されていると思いますが、歳を経るにつれ、「教える立場」になることが増えます。それと同時に、「教わるコト」が一方通行ではなく相互補完的なものであること(教える⇔教わる)を認識するようになるでしょう。このことを よく覚えておきましょう。




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■質問2■
伝統的なもののよさをどこに感じているのですか。


□回答2□
まず「伝統」という言葉に強く束縛されないことが大事・・・そのことを教えてくれる「よき教材」が「伝統」だと思います。
ちょっと「ひねり」が入った禅問答のようなワードからスタートとなり恐縮ですが(笑)、続けますと・・・
京都や奈良を語るキーワードとして「歴史・伝統」を提示する・・・これは明快だし異論を挟む余地を与えないと思います。
しかしながら、「京都・奈良に住む人々は全員保守的か?」と言われると・・・そうとは言い切れないのですよね、みなさん(笑)?
むしろ歴史・文化・伝統に正面から向き合い、「いま何をすべきか?」を真剣に考えている「先鋭的な」人々が多く住む街だと感じます。
政治・経済・文化・芸術の発信地として多くの人が住み、永きにわたり築かれ醸成されたものが都市です。
奈良が首都であった時代が数十年、京都にあっては(鎌倉・江戸といった日本独特の権勢移動を除いたとしても)500年以上になります。
単純な時間量の比較では東京より京都の方が首都である時間が長いんです(笑)。
総じて、「文化」とは新しいもの・優れたものを追求したもの・・・京都や奈良にあっては、この「蓄積された美しい状況」を我々は、いま目にしているのです。
ほとんどの場合、最初から「伝統を守ろう」というルールで始まっているのではないと思われます。
ある程度の価値・意義・実績をふまえてから「守ってゆこう」というムーヴメントが起こるものです。
このあたり、授業では教わらないことかもしれません。
でも、たいへん重要なことです(笑)。
その一方、伝統という言葉とは裏腹に・・・元来、日本人は「新しいモノ好き」・・・特に現代は、ある種の価値観を継続して持ち得ない時代であるような気がします。
つまり、このような刹那的な現代を省みての「伝統」というキーワードの援用・・・これが、この質問の底流にあるのではないかと思われます。
繰り返しになりますが、「最初から古いものを守るというディフェンシヴなものではない・・・今も新しい情報を発信し、先端でありたいというデザイナー・クリエイターが住む街・・・それが歴史都市である」ということを覚えておきましょう。
停止していない、現在進行中の「生きた伝統」・・・そこに学ぶべきものが多いと思います。




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■質問3■
どうしてこの仕事に就いたのですか。
そのきっかけとなった出来事は何ですか。


□回答3□
これは意外にコメントしにくい類の質問ですね(笑)。
きっかけは親族が建設業に従事していたという環境が大きいのでしょうね・・・でも、これをメインの回答にしたら自分でも合格点をつけにくい(笑)。
やりたいこと・・・高校時代までは決まっていそうで決まっていないものですよね。
自分の中学時代は「ほめられる・評価される・羨望の対象になる」という状況が実現できれば、どんな仕事でもいい・・・と思っていたような気がします(笑)。
ギターが上手であったら音楽関係に進んだかもしれないし、国語が得意だったら文筆家を目指したかもしれない・・・。
最初のターニングポイントは、やはり大学進学時点です。
理系志望の場合、ある程度のジャンルを絞らねばなりません。
医学・化学・物理学・天文学・数学・機械・・・そんな中のひとつとして、私は建築を選びました。
一方、文系の方は職業選択の巾が広い分、職種の絞り込みが遅れる場合があるようです。
特に、大手企業の営業職を希望する場合、「何を作っているか?」よりも「どうやってビジネスにするか?」という点で選択されるので、ジャンルの巾が広くなるような話も耳にします。
でも、あまりにジャンルが広いと心が整わない・・・そのことを企業側も察知します。
「ぶれない志向」・・・難しいでしょうが、これがいちばん大事です(※)。
次のポイントは「建築というジャンルで何を求めるか?」でした。
ひとことで「建築」といっても、現在の大学教育では、材料の専門家・構造力学の専門家・音響の専門家・意匠の専門家など細かく分かれてゆくんです。もちろん、その全てを広く教わってからの話ですよ(笑)。
所属する研究室によって専門分野があり、そのジャンルを極める先生や先輩たちと勉学をともにおこなうのです。
ここで私が選んだのは歴史系の研究室・・・結果的に、これが建築全般を扱う今の自分を支える基盤になっています。
この話の続きは後の質問の中でお答えすることとしましょう。

(※)大学によっては入学後に転部・転科が認められる場合もありますので、受験の際は、そのあたりを調べておくのもよいでしょう(進路相談みたいになってしまいましたね。申しわけございません=笑)。




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■質問4■
中学時代に学んだり、身につけたことで、今も自分の中に生きているということはありますか。


□回答4□
はっきり言って「全部」です(笑)。
今も中学時代の同期で集まることがありますが、皆さん当時から あまり変わってないものです(注:これを字義どおりに捉えると「10代から何も進歩していない」と読まれそうですが、そういうことではなくて「ベースは変わっていない」と読むべきです=笑)。
先の回答でも述べましたが、これから学問を進めてゆくほどに専門領域に分化してゆきます。
これにより、話題を共有できるグループが変化してゆきます。
中学時代は皆が同じものを等しく学べる場・・・ですから同じ話題を数十年経っても共有できるのです。
日常生活・生徒会・体育祭・修学旅行・・・皆が同じ方向に向かって進んでいる思い出は強いもの・・・将来、再会した時の大切な仲間を維持するための強力なイメージ・ツールになると思います。
楽しんで生活しましょう!




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■質問5■
伝統を継承しつつ今の時代に対応するためにどんなことが大事だと思いますか。また、どんな努力や工夫をしていますか。


□回答5□
明快です。
「温故知新」・・・これで宜しいのではないのでしょうか(笑)。
先にも述べたとおり伝統とは「専守防衛」ではないのです。
先鋭的な ややもすれば新奇な取り組みがあり、そこにフォロワーがついてトレンド・文化となる・・・その蓄積が地層のように積み重なったもの・・・これを伝統(ないしは「伝統的なるもの」)と呼ぶのでしょう。
いつの時代もトライがありエラーがあっても修正して次に進む・・・それでよいと思います。
それと同時に、「自分が本当に新しいことを目指しているのか」という立ち位置を確認することも必要です。
それは何か・・・過去を学ぶこと すなわち先達が展開した歴史を しっかり把握しておくことが大事になります。
自分が「これ めちゃ新しいデザイン!」と息巻いても、実は どこかで見た写真が夢に出てきたもの・・・となると、オリジナリティに「?」がつきますからね。
善意であっても「ものを知らない」ということになる・・・これは文化の共通言語を置き去りにしていることとなり、交流が生まれないのです。
「自分が人類として どこに立ち、過去に何があり、未来に何が見えそうで・・・そして今、何がしたいのか」・・・大きすぎる話ですが(笑)、そのくらいの話ができるよう歴史を学びましょう。
もちろん「広く浅く」で結構です!
補ってくれる専門家は、世の中に いっぱいいます。
まずは「質問するきっかけ」を持つこと・・・それが第一歩です!




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■質問6■
京都や奈良で、ぜひ見たり話を聞いたりするといいというところはありますか。


□回答6□
いっぱいあります(笑)。修学旅行の数日で網羅できるほど奈良・京都は浅くないです(笑)。
私がオススメしたいのは、「どこを見るか? どこで聞くか?」という思考を改め、「どの時代を感じるか?」というテーマで旅をすることです。
私は中学・高校とも修学旅行の行き先が奈良・京都でした。なぜかはずみがついて大学も京都・・・その縁あって今も京都の大学で教えています。
そんな私の修学旅行における「反省点」・・・それは「エリアの中で効率的に見て回る」ということをメインに考えてしまったことです。
皆さんは、この思考を改めた方がよいと思います。特に京都は・・・。
理由は「平安から現代まで あまりに多くの文化資産が混在している」からです。
お寺・神社・庭園・まちなみ・・・どれも落ち着いたたたずまいを見せるので、「まとめて伝統」と思い込んじゃいそうですが、1000年以上の巾があるんです(笑)。多くの人が、そこを忘れて探訪してしまう・・・。
エリアを絞ったあとに「時代を絞って1日を過ごす」というスケジュールを組むと勉強になると思います。
たとえば「平安期・鎌倉期・室町期・安土桃山期・江戸期・近代」といった分類をしたうえで行き先を決めると、歴史都市の素晴らしさが よりよくわかると思います。

参考URL(過去に私がブログでとりあげた場所をピックアップしました)
平等院 鳳凰堂(平安期)
http://d.hatena.ne.jp/kubota_staff/20091231
高山寺 石水院(鎌倉期)
http://d.hatena.ne.jp/kubota_staff/20091216
圓通寺(江戸期)
http://d.hatena.ne.jp/kubota_staff/20080407
平安神宮(近代 明治期)
http://d.hatena.ne.jp/kubota_staff/20080125
東福寺 方丈庭園 (近代 昭和期)
http://d.hatena.ne.jp/kubota_staff/20071112


(追記)
海外ツーリストの多くが日本の歴史に大きな興味をもっています。
ややもすれば日本人よりも積極的に歴史を学ぼうとしています。
本来、日本人のアイデンティティを保つために我々がもっと日本を知るべきです。
これは皆さんが世界的な仕事に就き、海外の方と交流すればするほど求められる知識です。
ぜひ日本の歴史を学びましょう!
くわえて、世界の歴史も!




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■質問7■
社会では、どんな人が求められていると思いますか。


□回答7□
ここは回答する前に注意喚起ですよ(笑)。
質問として、たいへん妥当なものだと思います・・・が、もうちょっと考えましょう!
「受け身」に過ぎる・・・これでは「現状にあわせて生きてゆく」という意志を感じてしまいます。
ないしは意志を止揚し、社会に身を委ねるようにも読み取れます。
もちろん環境を受容して生きてゆく・・・ややもすればアフォーダンス的視野でマイライフを語る確信的言動であれば興味深いものですが(話が難しい方向に流れそう・・・すみません=笑)、要は「もうちょっと自身を磨こう」という意志を先に置きましょう・・・そう思います。
その上で語るなら、現代社会は「歯車ではない人」が必要・・・実際そうなっていると思います。
機械生産の時代であれば装置的な振舞いが主流であったのかもしれません。
ですが、現代のコンピュータ・ネット主流の時代では、小さくても脳(意志)を持つことができるのです。
ギブとテイクのインターコース(交通)があるのです。
研究でも仕事でもスポーツでもそうですよね。現代サッカーはシステムで動いているだけではダメ・・・「4-1-4-1」とか「3-4-3」とか言ってるだけではダメというのは、選手の口からも監督の口からも出ます。考えながら次を見据えた「個々の判断の積み重ね」がグループの強さなんです。
ですから、この質問は「現代社会で特徴を活かすことができるのは どのような人ですか?」とするべきだと思います。




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■質問8■
この仕事のどこにやりがいを感じますか。


□回答8□
「自分の思ったこと、認められたこと、決めたことが数日後に実現されている」ということです。
建築にかかわらず「ものづくり」とは、よろこびをともなうものです。
意外に思われるかもしれませんが、建築家には料理が得意だったり農作物を育てることを趣味にしている人も多いです。
これは「イメージしたことをカタチにして確認できるから」です。しかも建築より早く結果が確認できるからという理由で(笑)。
特に、建築は日常生活を含むもの・・・家に帰っても「建物の中」ですから(笑)。
そういう意味では「明確なオン・オフ」ができない業種・・・逆に言えば、「ずっと仕事」です。
日常に「気づき」があり、新たなものを生み出す・・・旅行に行ってもヒントがあるし、食事に行ってもヒントがある。
もちろん、友人との日常会話の中にもヒントがあります。
そんな生き方が自分にあっているんでしょうね。
逆に言えば、割り切って長期休養というのが苦手かもしれません(笑)。
旅行に行っても建築・空間を感じるものとしたいので、都市に向かってしまう・・・南の島や南極は、はるか遠いもののような気がします。
もちろん月の裏側も(笑)。




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■質問9■
僕達(私達)は、数年後に社会人になりますが、今から何を気をつければよいのですか。


□回答9□
「自分で考えなさい」と突き放してみる・・・というのはフツーっぽいので、一緒に考えましょう(笑)。
勉強に関しては、できるだけ全ジャンルを網羅しておいた方がよいでしょう。
「広く浅く」で結構ですから。
年齢を重ねてゆくと、専門分野の習得は意外と簡単にできるものです。
自分が努力することで足りますから。
ただ、専門的分野に入り込むと、それに没頭してしまい、大きな視野で見ることができなくなります。
自分に対して「時間がない」、「人にできない仕事をしているんだから今の仕事が大事」、「そんなことは、いつでもできるから」と言い訳をしながら・・・。
昔であれば、「これぞ職人気質(かたぎ)!」ということで許されたのでしょうが、現代は全てがコミュニケーション重視の時代・・・「知る権利」があるとともに「伝える義務」も負うのです。
何にでも好奇心旺盛なアンテナを張って日々暮らしてゆくことが大切です。





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■質問10■
建物を作るうえで、気をつけていること、心がけていることは何ですか。


□回答10□
「この場で、この時代に、この人たちに、何を用意できるのか・・・それが最適な回答なのか・・・」
この繰り返しです。
我々にとって、「家は買うものではなく創るもの」(建築家 奥山裕生さんの言葉)です。
それも「物質を組み立てる」という技術的行為の前に、「人々は何を期待して私に設計依頼するのか?」という根本的な問いへのクリアな回答ができるよう努力しています。
よく反芻しながら設計をおこない、理解してもらうことができるような説明(プレゼンテーション)をおこない、賛同してもらって はじめて実際の建築行為にうつります。
「わかりあえる」ということ・・・これが いちばん大事なこと・・・ゆえに、「建築」が人間の基本的行為のひとつとされるんですよね。
なにせ「衣・食・住」という三大要素のひとつですから(笑)。

■参考URL:「家は買うものではなく創るものです展」
http://amenomichi.exblog.jp/15272522/



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(文:久保田正一



今回も お読みいただき ありがとうございました。


なかのひと