日本における理想的住宅の行方



 先週末、大学の関係で東京の多摩ニュータウンに行きました。多摩センター駅で電車を降り、商業地区を通り、サンリオピューロランドの誘惑にもめげず(笑)、多摩中央公園を経由して着いたのが、「鶴牧・落合地区」という1980年代の住宅開発エリアです。


 ここは、「基幹空間」という大規模な線形緑地空間を中心に街区が構成されている事で有名です。「基幹空間」は、エリア全体をコーディネートする上で最も重要なものと位置づけられています。


 基幹空間に沿いつつ配された低層のタウンハウスは、ゆとりをもった間隔で並ぶおかげで、我々は公共のオープンスペースと私的なガーデンが一体となった緑豊かな空間を見る事ができるのです。


 さらに素晴らしいことに、この基幹空間は遥か向こうの富士山の頂上に向かう「景観軸」を有しているのです。中央に立つと、天気のよい日は富士山が真正面に見えます。まぁ静岡人としては、それほど羨ましい事ではないですが(笑)・・・(地図はココ


 住宅地や公園よりも5m以上低い位置に車道を通す事で、住民は駅から自宅までの間、一度も車に出会うことなく通勤・通学できます。また、街の中心部には電線や電柱が見られず、美しい景観づくりに皆が一丸となって取り組んだ歴史を感じる事ができました。


 しかしながら、少しながらの疑問も持ち帰る事となりました。この1980年代における「理想郷」は、果たして現在においても有効なのでしょうか。たとえば、コンビニ、雑貨屋、交番などがなく、賑わいのある声・音が聞こえない事に淋しさを感じ、車の怖さを知らない子供を見る事で不安を覚え・・・求められる都市像が変わったのかもしれません。また、人間の心も変わったのかもしれません。住まいだけでなく生活意識全体のリフォームの時期に入ったような・・・。


 ちなみに、このエリアは1983年のTBSドラマ「金曜日の妻たちへ」(制作: 木下プロダクション/TBS 脚本:鎌田敏夫 プロデューサー:飯島敏宏 ディレクター・監督:飯島敏宏、松本建 主題歌:「風に吹かれて」by ピーター、ポール&マリー 出演:古谷一行小川知子いしだあゆみ泉谷しげる竜雷太、佐藤友美、石田えり、佳那晃子、大原和彦、岩瀬威司、今井里恵、加藤健一、西川ひかる、あき竹城、直江喜一、ほか)のロケ地として知られます。


金曜日の妻たちへ DVD-BOX

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 1970年代〜1980年代のテレビドラマは、この「場所」と「家族・人間」の関係をうたうものが少なくありませんでした。しかし、「金曜日の妻たちへⅢ・恋に落ちて」の主題歌として知られる小林明子さんの「ダイヤル回して 手を止めた 」という当時の情景描写は、その後の「ポケベルが鳴らなくて」を通り越して「着信アリ」までたどり着く事になります。携帯電話を手にしただけで、ドラマにおける場所の重要性は一気に失われたのです。最近のテレビドラマに共感を得られなくなっている方は、この点に歯痒さを感じているからかもしれません。


 もちろん、この手の世情の描写は私よりもユーミンこと松任谷由美さんの方が上手なわけで(笑)、アップル・サイトのスペシャル・インタビューにおいて、彼女の目に映る場所性と人間性の意味の変化を感じさせるコメントを見ることができます。


 完成してから20年以上経っているにもかかわらず、公園や街路がいまだに綺麗なまま保たれているのは、住民ひとりひとりが街と真摯に向き合う姿勢を持ち続けている証拠でもあり、羨ましく感じるとともに、その意識の高さに感心させられる一日となりました。そんなに遠くに行かなくても、隣の街を見るだけで勉強になる事があるものです(とはいうものの、九州の温泉めぐりも行ってみたいところ=笑)。


■写真:多摩ニュータウン 基幹空間の様子


(文:久保田正一

  今回も お読みいただき ありがとうございました

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