7章「鉄骨工事」

 今回は鉄骨工事(鉄骨造)について記します。鉄は建築部材の中でも極めて材質のバラツキがなく、かつ工場生産品であるため精度が非常に高い材料です。コンクリートのような流動性、木材のような乾燥による形状変化がないため、高精度な建築物を建造できるのです。また強度が高く比較的軽いため、立体駐車場・屋内運動施設などの大空間建築・超高層建築を可能にします。さらに、RC造(鉄筋コンクリート造)に比べて柱や梁など構造材を細く小さく設定できるため、内部空間の有効利用にも役立ちます。



 一般的に鉄骨造には、RC造のように柱と梁を剛接合(ラーメン構造)とする架構と、木造建築のように柱・梁の他に筋交い(ブレース)を入れて補強する架構があります。前者は柱と梁の構造材が大きくなるかわりに間口を広くできるため、大開口の窓や車庫の入口を幅広く確保することが可能です。一方、後者はブレースがあるため大きな開口を採りづらくなりますが、柱や梁を小さいサイズに出来るため 結果的に柱型等が室内に出にくく シンプルなインテリア デザインの展開を可能とします。有名な作品としては、あの「イームズチェア」でお馴染みの建築家 チャールズ・イームズ氏の自邸 イームズ・ハウス(Eames House)が 挙げられます。このイームズハウスにヒントを得て生産されたのが工業規格化製品としてのプレファブリケーション・ユニット(鉄骨プレハブ住宅)です。オリジナルはミッド・センチュリー・モダンにあったという事ですね(1949年)。


 木造やRC造に比べた場合、鉄は振動が生じやすく、特に地震時や大通りに面した敷地では揺れを感じる場合があります。そのため、鉄骨造の外壁は基本的に躯体に完全固定することはせずに、躯体が動いてもその力が外壁に伝わらないよう 可動的な取付方法を用い、それによって安全性を確保しています。また熱に対して強度変化が生じやすく、500℃になると半減してしまう性質を持っています。そのため、建物種別、地域別に要求される耐火性能を持つ外壁で覆ったり、吹きつけや耐火板、耐火塗料などで被覆します。
 

 それらの対応をしっかり施す事で 鉄は安心して住む事ができる高強度な建築を可能にする建築材料となります。また、鉄は様々なデザインにも対応します。鉄骨を使った有名な建築作品としては、 「バルセロナ・パヴィリオンバルセロナ・チェア」でも知られる建築家ミース・ファン・デル・ローエ氏設計の「ファンズワース邸(Farnsworth House)」や フランク・ロイド・ライト氏設計の「グッゲンハイム美術館(Guggenheim Museum) 」、エドワード・D・ストーン氏、フィリップ・L・グッドウィン氏、フリップ・ジョンソン氏、シーザー・ペリ氏、そして谷口吉生氏が 時をこえてコラボレートした「MOMA(ニューヨーク近代美術館)」、伊東豊雄氏の「せんだいメディアテーク」など多数ありますが、これらも鉄という材料を使わなければ実現できなかったでしょう。これからも軽量高強度の鉄の性質を駆使し設計された先鋭的な建築デザインが増えてくると思いますし、自分自身、建築に携わる者としても非常に楽しみに感じています。



(文:那須啓一郎



(写真:HR邸  設計=Integrated Network kc2 、施工=久保田建設株式会社



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