時代のカタチ  



 時々、友人からこんな質問を受けます。
「この家 何年くらい前に建てられたのかな?」、「昭和の感じがしない?」・・・
 私はといえば・・・逆に、プロとして正確を期するために即答を避ける場合もあり、これらキレのよい「お見立て」に、ただただ頷いてしまう事もしばしば・・・。
 「いつ建てられた家か?」・・・これを判別する手がかりとして、「老朽度・素材・形状」という3つの視点があります。その中で最も時代感を反映しているのが、「素材」の推移です。屋根は日本瓦から洋風瓦・金属系へ、壁も杉板・左官塗からサイディング・金属系へと、そのトレンドが推移してきました。全国各地の大規模ニュータウン開発を見れば、その成立年次と使用材料が見事にリンクしながら街並みを形成している事がわかるでしょう。この「素材の時代性」は、建材メーカーの技術革新によってもたらされています。
 一方、建築家サイドの技術革新によるのが「形状」のトレンドです。最大の要因は、図面作成の現場が「製図板上=手書き」から「パソコン上=CAD」へとシフトした事です。かつて我々は、Tracing Paper の上で何度となく試行錯誤を繰り返しスケッチを重ねたものです。この「Tracing Paper を使い、下の図を透かして見ながら上の紙にスケッチを描く」手法は、現在CADの「レイヤ」という概念に受け継がれています。加筆・修正の労を軽減する事のできるこのシステムは、非常に便利なもので、私もたいへん重宝している機能です。
 そう、時代の「カタチ」はコンピュータが担い始めたのです。今まで想いもよらなかった形態の建築物が、現在、次から次へと生み出されています。その「波」は大規模公共建築だけでなく住宅にも及んでいます。先鋭のデザインを駆使した理想の住まいが建てられる・・・魅力的な時代になりました。
 ただ、そんな時代のただ中にあっても、私の脳裏には「道具に使われるなよ!」という声が響きます。20年以上も昔の先輩、先生の言葉です。手書きのスケッチでなければ出てこないアイデアがある事も知っている私ですから・・・このコンピュータという宝箱・・・今日も興味津々で使っていますが、やはり使いすぎには注意をしなければ・・・ドライ・アイ状態の私です(笑)。


■写真:設計中のCAD平面詳細面の一部(「house-wt」東京都練馬区


(文:久保田正一