美の価値基準 テイストとモデュロール



 我が家はテレビ東京をよく見ます。「えっ、静岡では見られないでしょ?」と思う方もいらっしゃるでしょうね。でも、見る事ができるんです(笑)。実はウチのマンション 「静岡ケーブルテレビ」のサービスを受けているため、テレビ東京がリアルタイムで見られます。荒天の際に画質が落ちるなどの難はありますが、見られるだけでも有難いものと受けとめております(笑)。最近は、平日にWBSワールドビジネスサテライト)、日曜に「美の巨人たち」を見るのが日課になっており、ささやかな「情報のアドヴァンテージ」を受けられる日常が少し嬉しいものです。そんな中、今日の話は「美の巨人たち」から・・・。


 9月3日の放送は、ドイツとオーストリアの国境近くにある近代の城 ノイシュヴァンシュタイン城でした。かなり歴史を重ねた城に見えますが、実のところ工事スタートは19世紀半ば・・・つまり築130年ほどの比較的新しい建物なのです(建築における歴史は「古代・中世・近世・近代・現代」と大別されます)。プロジェクト・マスターはルードヴィヒ2世・・・クライアントとして、デザイナーとして、また現場監督として、細部までこだわりを示しています。ワーグナーのオペラに心酔し、近世王侯の栄華を夢見るがごとく、建築・インテリア・ランドスケープなど全てのイメージを絶対王政時代から写しとっています。否、それ以上に「本家越え」との呼び声も高い空間に仕上がっています。このようなテイストに加え、当時の最新技術である鉄筋コンクリート造やエレベーター導入にも挑戦しています。単なる「古典のコピー」ではない所以です。


 しかしながら・・・はたしてこれは現代住宅において見習うべきものでしょうか。この「近代の城」を揶揄するようなかたちで登場しているのが「モデュロール兄弟」という2人の黒子さんの妙演です。彼らを単なるお笑い2人組ではなく、なんとなくあたたかい眼で見てしまった方・・・その人は間違いなく近代フランス好きです(笑)。


 モデュロールとは、偉大なる建築家ル・コルビュジェが仲間たちと提唱したものです。「人間のために本当に必要なものとは何か?」という問いかけに対し、その具現化を企図すべく世界共通の基準を設けようとしたのです。その成果のひとつがモデュロールです。ヒューマニスティックな志向でもあり、ワールドワイドに建築を展開するモダニズムの根幹をなす思考ともいえます。モデュロールでは理想的な人間の体型と動作時の寸法を明確に記しています。椅子に座って43cm、肘をかけて113cm、頭の位置は183cm、手を上げたら226cm・・・というように。これら数値が、実は黄金比フィボナッチ数列など「比例の美」となって関係性を持っているところに「数学と美術の一体感」をみるのです。つまり、装飾的なものだけがデザインではなく、タテ・ヨコ・高さの比率や人間とのスケール比較によって美しい空間が創られるという思考です。コルビュジェは、この思考に沿って数々の住宅作品を創り出してきました。廊下や階段の巾、家具サイズ、室内空間寸法などの適切値を模索するため、モデュロールは必要不可欠のものだったのでしょう。現代において、特に「狭小住宅」を考える際は、このあたりを再読してみる必要がありそうです。


 今回は、ちょっと気負った語り口になってしまいましたが、要は「モデュロール兄弟」に興味津々だったという事ですね、多分(笑)。



(文:久保田正一

■写真 : ノイシュヴァンシュタイン城モデュロール


(なおモデュロール以降、建築界には様々な建築思想の潮流が訪れます。地域主義、メタボリズムポストモダンなど様々なムーブメントがありましたが、その多くがモダニズムへの回答であり相対的な指針表明であったと言われます)


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