「月刊PLAYBOY」を建築的に読む(後編)



 「月刊PLAYBOY」のギタリスト特集を建築デザイナーの目線で俯瞰すると面白い事に気づきます。それは、ギターは手で触れるものであり、人体と一体化したデザインであるという事実です。まるでドアのようでもあり、椅子のようでもある・・・さらには建物本体にも通じるものが・・・めくるめく私の思索は、ここから始まります。


 ギターは楽器であるととも工業製品・芸術品でもあります。いまや「ヴィンテージ」と称されるギターが数多く存在し、なかでもエリック・クラプトン愛用の黒いフェンダーストラトキャスターは、2004年のクリスティーズのオークションで95 万 9500 ドルの値がついたという話も・・・。子供の頃、「同じ楽器なのに、なぜヴァイオリンは高くてエレキギターは安いんだろう・・・」と、ちょっと悔しい思いをしてきた かつてのロック少年たちの溜飲を下げるニュースであった事を思い出します。


 ギターには大きく分けてソリッド、フル・アコースティック、セミ・アコースティックという三種類の構造形式があります。ソリッドとは密実な木材を一体接合したものを言い、フル・アコースティックとはボディ内部が空洞化されたものを言います。その中間にセミ・ホロウ構造が存在します。一般的に、ソリッド・ボディのギターを「エレキギター」と呼び、ホロウボディは「フルアコ」、セミ・ホロウボディは「セミアコ」と呼ばれます。そのボディにピックアップ(ギター専用マイク)、弦、ブリッジ、糸巻、ヴォリューム等の金属製品をセットしたものを総称して「ギター」と呼びます。中でもソリッド・ギターはロックの代名詞であり、さらにその中で三大ギターとして賞されるのが「ギブソンレスポール」、「フェンダーストラトキャスター」、「フェンダーテレキャスター」です。これらは形も違えば音色も違うもので、ギタリストのルックスとサウンドを左右します。


 このように、少しだけクラフトマンの目線に立って頭を巡らせてみると、ギターの基本構造は「木造+金物取付」という事実に気がつきます。そして、これは現代の木造住宅の工法に非常に近いところを併走しているのではないか・・・そう考えられなくもありません。たとえば、ボディとネックのジョイントに関して言うと、ストラトキャスターテレキャスターはデタッチャブル・タイプ(ジョイント部 ネジ止め)であり、レスポールはセット・ネック(ジョイント部 接着剤止め)となっています(※)。 どうです?  集成材の大断面の梁、突板合板のフローリング、耐震用の金物補強、柱・梁の金物接合の様子とダブってきませんか(笑)?




 さらに、ボディやフィンガーボードに使用される材料を見ると、住宅で多用されるもの同じ種類の木材がセレクトされているという事がわかります。


 レスポールは基材にメイプルやマホガニーが選ばれ、ボディ仕上げにメイプル、フィンガーボードにはローズウッドがよく使われます。比重の大きい木材が使われているため、総じて重く仕上がっており、これがレスポールの特徴にもなっています。また、ボディはクールな単色からサンバースト塗装まで様々な塗装が施され、特に、生地をいかしたトラ目、バーズアイ・メイプルは、今も昔もギター・フリークの垂涎の的です。


 一方、ストラトキャスターテレキャスターのボディは、1ピースあるいは板を横に張り合わせた2〜3ピースが主です。ボディはアッシュやアルダー系の木材が多く、フィンガーボードはメイプルやローズウッドが使用さ、全体的に軽くソリッド感のある音が特長です。光沢あるウレタン塗装、ナチュラルなクリア塗装に人気が集まります。


 メイプルとはカエデ、アルダーとはカバ、アッシュとはタモです。これらは、まさに住宅のフローリング、ドア、窓枠によく使われる材種です。少し前に好まれたナラ、オークのフローリングに代わって、最近は明るめのチェリー、バーチ、メイプルが好まれるという事情もあいまって、住宅建材とギターの距離感は、ますます近いものとなっているのです。



 では、ギターと建築 双方に共通な木材を使用する理由はどこにあるのでしょう。それは、反り、伸び、縮みなどの狂いが少ない構造体としての機能と、いつまでも綺麗に保たれる化粧材としてのニーズでしょう。強く美しくあり続ける事が必要なのですね。なお、建物もギターもメンテナンスは大切です。ワイルドなロッカーでもギターの手入れに関してはきめ細やかなものです(笑)。こうして丹精込めた全てのギターと全ての住宅が、世界に1つの「レア物」として、このうえない価値がある・・・持ち上げすぎのきらいもありますが、そうありたいものです(笑)。


 意外にも「月刊PLAYBOY」からヴィンテージ・ギターを通じて建築的なイメージが広がる・・・そんな嬉しさを感じる今日この頃です(笑)。

(※)他にも、BC Richによるネックがボディ端まで一体構造の3ピースボディ「スルー・ネック」のギターや、steinbergerというグラファイト・ボディのギターもある。

■写真上:左からレスポールストラトキャスターテレキャスター
      形も音も三者三様 ソリッド・ギターの定番中の定番です

■写真中:左から集成材、突板フローリング、接合金物ジョイント
      どれもギターの製作に通じるものがあります

■写真下:左からメイプル、ローズウッド、アッシュ
      反りの少ない材料を欲するのは楽器も住宅も同じです


(文:久保田正一


ヴィンテージ・ギター (Vol.15) (エイムック (981))

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