「ル・コルビュジエ展」 会期内に確認完了です


 土日を含めての三連休が多い この秋・・・いろいろな場所にお出かけの方も多い事でしょうね。私は混雑を承知のうえで首都圏の気になるスポットを訪れました。ここ数日のブログは それらに関するコメントを続けます。まずは 六本木ヒルズ森美術館で開催された「ル・コルビュジエ展」から・・・。


 ここ数ヶ月、東京に来るたびに見学を予定していたのですが、他の用事を優先したため ここまで伸びまして・・・気がつけば9月24日(月・祝)終了との事・・・ともかく荷造りをして23日(日曜)午前8:00に静岡をスタートしました。今回は連休中の車での移動ゆえ交通状況も心配されましたが、道中も意外にスムーズ・・・六本木ヒルズの駐車場へも難なく進入する事ができました・・・が、・・・美術館エントランスの3階に向かうと そこはたいへんな人の列! チケット購入まで待つこと30分・・・その間に思ったのですが、建築家の作品展が これほど盛況な一大イベントとなっている この現象に「素朴な不思議感」を持ちました。この道で四半世紀以上生きてきた私が思うのですから、先輩諸氏にとっては もっと不思議な現象だと想像されます(笑)。



 「建築展が一般化した」・・・この事実を作り上げた森美術館東京オペラシティ アートギャラリーの功績は たいへん大きいものだと思います。つい数年前まで「建築展」は (おそらく)一般の方々の知らない世界で開かれていたものでしょう。来訪者も建築家、デザイナーなど「ものを作る人あるいは 作る事に興味ある人々」が中心だったものです。それが ここ森美術館では「皆が共有する知識・教養のひとつ」として位置づけられているように見えるのです。一般社会における建築家の認知度を推進し、消費される状況を甘んじて受けようとも・・・歴史の中に名とモノ・コトを残したという点から、レオナルド・ダ・ヴィンチ織田信長のごとく 「教科書で知る著名な人物」 として 並列に取り扱われているのかもしれません。これは推測でしかありませんが、建築家 磯崎新氏 が「日本ではル・コルビュジェが神格化されている」と記す機会を得たのは、こうした背景があるからなのかもしれませんね(※)。


 「建築」が身近になっている事も理由の一つでしょう。今まで「建築家、デザイナーに我が家の設計をお願いするのは 特別の人が なさるもので・・・」と思い続けてきた方々が、口コミ、雑誌、テレビ、インターネットなどの情報を介して「ウチも 建築家と一緒に ローコストで小規模の住宅を作る事ができるんだ!」という事実を知り始めた事が大きいのかもしれません。静岡で設計をしている私のもとに電子メールで問い合わせが来るのも このような社会事情に後押しされているんだな・・・・そんな事まで想像し、思わず感謝の念を持ってしまった「待ち時間」でした(笑)。



 そして、ようやくチケット入手・・・誘われるがままエレベーター+エスカレータで53階の展示スペースに・・・。


 思ったより絵画・彫刻の点数が多く、建築に関しては住宅・教会・議事堂の図面・スケッチ・模型など過去の「ル・コルビュジェ展」で見たものが多かったようです。まぁ、それはそれで「再会」として楽しむべきものでして、思わず20代当時の「自分」を思い出してしまいました(笑)。当時、何度も繰り返して見たジャック・バルザック監督の映画「ル・コルビュジェ」(三枚組 DVD-BOXとして再販)も上映されており・・・なつかしさ倍増・・・私個人の感情に対して「機能」したようです(笑)。そう、我々の学生時代とは・・・ちょうど「ル・コルビュジェ生誕100周年」という事で、イベントが目白押しだったのです。


ル・コルビュジェ DVD-BOX

ル・コルビュジェ DVD-BOX


 中でも出色なのは 原寸大の「アトリエ」、「ユニテ・ダビタシオン」、「カップマルタンの休暇小屋」という3つのモデルスペースでした。ここで内部空間を実寸体験できるのです。ユニテの展示壁面にはモデュロールhttp://d.hatena.ne.jp/kubota_staff/20060906参照)のスケッチが何箇所にも描かれ、身長183cm、手を上げた高さ226cmを確認です。ユニテ内部は、いわゆる「メゾネット」・・・しかも中廊下を上下に挟んだ左右一対の「3層2住戸」というユニットで構成されています。間口3.66m、吹抜部分の高さ4.8m、長さ24m(!) という住まいは、集合住宅なのに両端の部屋から遠慮なく陽光を受ける事が できます。居室のプライヴァシーという点では 現代のマンションより優れています。また、ユニテがマルセイユに建設された1945年〜1952年は第二次世界大戦後の希望をより多くの人々に 等しく受け容れられるべく モデュロールに沿った 「小さくとも快適な空間」の実現が試みられています。寝室の巾は2mを切り、天井もモデュロールに沿って低め・・・いろんな事を知った現代人にとっては「もう一声! 広く高い空間が欲しい!」と言いたいところですが、「時代の要請」としてみる場合、この「心地よい広さ=狭さ=大きさ」という思考は、人間の体感尺度(ヒューマンスケール)に対し 正面から取り組んだ証であるとも言えます。




(1996年 セゾン美術館 「ル・コルビュジエ展」図録より)


 同じく カップマルタンの休暇小屋も適切なスペースを示唆したもの・・・付記するなら、その部屋からは 強烈ではないが魅せられてしまう穏やかで美しい風景(ランドスケープ)が添えられているのです。スペースと人間 そして風景との関係・・・状況・時代は異なりますが、日本の茶室が 素晴らしい庭園や山々の借景といった広がりのあるスペースに対して小さく築造されるのを見るような 空間を用意する側の「大いなる意志」が存在するのです。決して「大きな部屋=良い部屋」ではありません。ちなみに・・・私は10帖を超える寝室では安眠できないような気がします(笑)。


 東京 超高層ビルの最上部でコルビュジエの夢を感じつつ、頭の中の感覚はいつもと同じ住宅スケールがベースであった・・・そこに面白さを感じた ひととき 呪文のように静岡コルビュジエ静岡コルビュジエ ・・・そう遠くないところにあるように思えるのでした。



(文:久保田正一



(※)この磯崎氏の言説・・・「字義」どおり読むよりも数歩下がって感じるならば・・・そのイメージは 自身が求めたというよりも フォロワー、展示、メディアが「ありがたみ」を構築していったという・・・私が大学院時代に研究した「ブルーノ・タウトと日本美の関係」と同種の視点で一筆を記したのではないかと・・・。


Le Corbusier ・・・ 日本語読みは「ル・コルビュジエ」が正解と思われます・・・が、DVD-BOXには「ル・コルビュジェ」とありますし、中には「ル・コルビジェ」、「ル・コルビジエ」と表記される場合もあります。私が大学院時代 修士論文作成の際に調べた 昭和初期の建築雑誌「国際建築」や ブルーノ・タウトと親交があった上野伊三郎氏・本野精吾氏らが立ち上げた日本インターナショナル建築会の機関紙「インターナショナル建築」では、たしか「コルブッシェー氏」と書いてあったと記憶しています(笑)・・・ひらがな カタカナ 漢字 アルファベット・・・混在したデザインも微妙な表現も・・・日本語って難しいですね。


コルビュジエ作品群として西洋美術館本館が世界遺産候補にノミネート」というニュースも あります。 
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/books/art/84696
http://miyatak.iza.ne.jp/blog/entry/301693
http://blog.goo.ne.jp/iethi/e/3d1e77219a2daec6634c61248d18d87f

youtubeによるニュース映像も御覧下さい(笑)。
http://www.youtube.com/watch?v=EBRTrayFhBo&eurl=http%3A%2F%2Fd%2Ehatena%2Ene%2Ejp%2Fvideo%2Fyoutube%2FEBRTrayFhBo


□参考URL
http://www.mori.art.museum/contents/lc/index.html
http://www.roppongihills.com/jp/feature/vol067/index.html
http://roppongi.keizai.biz/headline/945/index.html
http://www.shibukei.com/headline/4442/index.html
http://www.greatbuildings.com/buildings/Unite_d_Habitation.html
http://blog.honeyee.com/kiki/archives/2007/09/no_title_68.html
http://agram.saariste.nl/scripts/fcard.asp?lookforthis=64&dir=corbu&pics=cb
http://kenko.surfauboulot.com/kokoro/a200609231109.php


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今回も お読みいただき ありがとうございました