境界が示す意味 メビウスの輪 クラインの壷


 始まったばかりの現場が あります。地鎮祭、近隣のお宅への挨拶も完了・・・まずは「遣り方(やりかた)」から・・・敷地に対して建物の正確な位置を示すための作業です。これが決まらないと工事が進みません。もっとも 設計開始時点で敷地の大きさは把握されているので、その「確認作業」と言うのが正解でしょうね。そして、その設計の前段階で確認するのが「敷地境界」です。道路境界、隣地境界、河川境界・・・自分の土地が どこまでなのか あらかじめ知っておく必要があります。境界位置が はっきりしないままでは設計できませんからね。最近は境界杭が明確に打たれている場所が多いですが、古くから住み続けている土地では不明瞭なままになっている事もあります。このあたりは できるだけ早めに明らかにしておくべきでしょう。最近は法務局でもサポートしているようですよ(筆界特定制度といいます。詳しくはコチラをクリック下さい)。


 ここで思うのですが・・・「境界」って不思議ですよね(笑)。「えっ、何が?」って思われるかもしれませんが、私にとっては いつも不思議なのです。みなさんも かつて学校で習ったことだと思いますが・・・数学では、「点」は大きさを持たず、「線」は太さを持たず、「面」は厚みを持ちません(概念上の話ですね)。ほんとに薄皮一枚もないところで、自分の土地とお隣さんの土地が接しています。その場合、境界を はっきりさせるために 厚みのある素材(一般的にはブロック)が使われますが・・・そのブロックは どちらの家で施工すべきでしょう?


 そんな悩みを解消するかのように、最近の分譲地では「ブロック片持ち」という事が多いようです。すなわち、横並びの街区において境界明示をする際、一方のブロックは自分の敷地にあるが 他方はお隣さんの敷地にある・・・こんな情景をよく目にします。



 ここで じっとブロックを見ます(笑)。境界ポイントを見ると ブロックは隣の土地にあります。でも、ブロック立面は こちらの敷地に向いています。将来、この面が汚れ、「掃除したいな」と思うこともあるでしょう。自分の建物側に見える「日常の風景」ですからね。でも、これは お隣さんの持ち物ですから、気やすく清掃できないもの・・・しかしながら逆の立場を考えた場合・・・所有者たる お隣さんが掃除したいと思っても・・・こちらの敷地に入らないと掃除できないので、やはり気やすく掃除できないのです(笑)。ここに「境界を定める」という事の難しさの一端を見るのです。


 一方、そんな浮世を横目で見つつ、境界を感じないシームレスな感覚に開放を求めたくなるのが人間の真理(笑)・・・思わず連想したのが「メビウスの輪メビウスの帯)」であり「クラインの壷(クラインの瓶)」です。「メビウスの輪」は御存知ですよね? 帯状の紙を180度ひねって接着した輪は、表(おもて)を見ているようで 気がつけば裏(うら)になっている・・・「紙」という二次元要素が三次元空間で「ねじれ」を起こしたものです。一方の「クラインの壷」は三次元要素が四次元空間で「ねじれ」を起こしたものです。イメージは表現できますが実際には制作不能・・・なぜなら我々が知覚できるのは三次元空間がベースですから。


この「壷」の解明にCGで挑んだ方がいます。
URL1)http://www2.neweb.ne.jp/wc/morikawa/sya.html


製作を試みた方もいるのです。
URL2)http://www11.plala.or.jp/nayama/ohnoklein/10genka2.htm


 イメージ的に近いのが「冷酒徳利」(笑)・・・外部空間が内部に美しく入り込んでいますね。

和がらす 冷酒カラフェ(ブルー)

和がらす 冷酒カラフェ(ブルー)



 「メビウス」は小学校の頃に知り、「クライン」は大学時代に知りました。ちょうど浅田彰氏が著した「構造と力―記号論を超えて」を読む事がきっかけで・・・表紙に「壷」がいっぱい並んでいます(笑)。我々の世代には多いんでしょうね・・・このきっかけ・・・当時 京都に住んでいた事もあり、たいへんキャッチーな「知の収穫」だったのかもしれません。冷酒徳利も・・・その頃に知った逸品だと思います(笑)。


構造と力―記号論を超えて

構造と力―記号論を超えて


 とにもかくにも・・・境界は難しいです。平和な日本ですから・・・・お隣さんと調和のとれた空間になるよう 皆で努力してゆく・・・そんな まちづくり が できたら・・・そう思いつつ、また じっと ブロックを見てしまいます(笑)。



(文:久保田正一



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なかのひと


今回も お読みいただき ありがとうございました