アプローチの景を知る(京都)


 前回から引き続き・・・神戸から京都に移動しました。まずは インテリアショップ アクタスACTUS)主催の「パトリシア・ウルキオラ(Patricia Urquiola )氏 セミナー」に参加です。場所は京都市右京区御室仁和寺・・・春の「御室桜」が有名な場所です。通訳つきのレクチャーは久々でしたが、それ以上に寺院空間(御室会館)で外国人プロダクトデザイナーの講話を拝聴するのは初めて・・・なかなか趣深いものでした。パトリシア・ウルキオラ氏が「何に着目し、何に感動しつつデザインしているのか」という話を たいへん分かりやすく語ってくれたのが印象的でした。モルテニ社(Molteni & C)の技術力にも感心です。



 私にとって 京都という街は デザインの「大いなるヒント」を与えてくれる場所です。端的に語るのは難しいのですが、このセミナーに向かうまでのスナップショットとして撮影した山門(二王門)から北を向く風景写真も 無言の回答を示しています。軸線は真北へ・・・背後の成就山に向かっています。つまり、計画段階で風景と伽藍配置の調和を考えているというわけですね。単に建築したのではありません。地勢と環境を十分に考慮しつつ、空間全体を捉えたランドスケープデザイン(Landscape Design)が 平安期に進められた証なのです。



寺院内 塔頭(たっちゅう)の門も 質素な中に強さをあらわす立派なものばかり・・・床面に敷かれた石のスロープが印象的です。現代公共空間では「階段=中央、スロープ(あるいはエスカレータ)=両端」という場合が多く、建築デザイナーにとっても目から鱗が落ちる光景です。



 一方、市中の町屋の正面ファサードは平入りの二層構成・・・上部に「葦簀(よしず)」が かけられ、下部には軒の低い雨除け空間があります。縦格子の採光部脇の引戸を開けると、内部には土間の通り庭があり、かまどや水場・・・その先には坪庭が しつらえてあったりします。イメージとしての奥行きを感じますね。



 また、木屋町界隈の料亭は細長い敷地を上手に使ったアプローチ(露地)空間が用意されています。実は、この床面も仁和寺塔頭門に同じく、奥に行くにしたがって床面がスロープアップしています。これにより「視界における石面が占める割合」が大きくなり、イメージは強調されます。このようなところにも細やかな配慮を感じます。


 そう、京都には こうした興味深いアプローチ空間が たくさんあるのです。日本人が「見慣れたもの」として普段意識しない風景の構成要素(エレメント)も、あらためて見る事で たいへん意義深いもの・・・そういう意味から、パトリシア・ウルキオラ氏の「眼」を通して見た京都の伝統風景は・・・おそらく・・・たいへん刺激的かつ斬新であったことでしょう。



(文:久保田正一



■パトリシア・ウルキオラ(Patricia Urquiola )
1961年 スペイン オヴィエドに生まれる。アッキーレ・カスティリオーニに師事、ヴィコ・マジストレッティのアシスタントとして実績を積み、1993年共同事務所を設立。アレッシィ、アルテラーノ、カッペリーニ、カッシーナ、カルテル、フロス、ボッフィ等でプロジェクトを手がける。その後2001年に独立、ドリアデ、モローゾ、モルテニ、カルテルなど数々のブランドのデザインを手がけている。


■参考URL

インテリアショップ アクタスACTUShttp://www.actus-interior.com/

モルテニ社(Molteni & C) http://www.molteni.it/

総本山 仁和寺 http://web.kyoto-inet.or.jp/org/ninnaji/



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なかのひと


今回も お読みいただき ありがとうございました