ねむの木こども美術館 特殊解と一般解


 2007年春 静岡県掛川市にオープンした 通称「どんぐり」と呼ばれる「ねむの木こども美術館」・・・先月、仕事の合間を ぬって行ってきました。設計は藤森照信氏・・・静岡においては、この建物に先んじて、浜松市(旧天竜市)に「秋野不矩美術館」を完成させています。




 銅板や草木を巧みに利用した独特の形態、柔らかみのある左官仕上げの塗り壁、そこに描かれた あたたかみのあるペインティング、木づくりの伝統を伝える細かなディテールへのこだわり、なだらかな芝生のアンジュレーションの向こうに並ぶ色とりどりの新芽が生える木々・・・一瞬のうちに素晴らしさ、面白さ、安心感が広がる藤森建築です。



 展示作品も素晴らしいものばかり・・・着想、タイトル、配色、構図、画法、サイズなど・・・全てに圧倒されました。内部空間も外部に同じく自然素材を組み込んだ 居心地のよさを体感できるものです。これは、壁と天井が同一素材で塗りこめられ、その境界が わか、らぬよう入隅、出隅ともに丸みを帯びた仕上げとしていること および 塗壁材のもつ吸放湿・吸音性能から感じられる全感覚的な快適さによるものと推察されます。



 普通の目線をもってすれば、この「ねむの木こども美術館」は 建築物として「特殊解(Special solution)」と称されるものかもしれません。しかしながら・・・「特殊解」って何でしょう? 個々の理由・希望があって、周辺状況があって、コストがあって、スケジュールがあって・・・となると、皆さんが考えている一般的な住宅すべてが「特殊解」なのです(笑)。一方、「特殊解」の対語とされるのが「一般解(general solution)」・・・これにおいても、「では、規格化され、カタログ化された住宅が一般解なのか?」という問いに正面から答えられる人は いないでしょうね。


 ここで少し視点を変えましょう。独創的な外観・内観の形態に比べ、この美術館の動線計画は いたってシンプルです。緩やかな芝面を基底とし、つつましやかなエントランスに入った・・・と思いきや、すぐに通過=ウォークスルー(笑)・・・再び外に出て、芝に敷かれた石の並びに導かれるまま、ブーメランの軌跡を見るがごとく美術館2階に吸い込まれてゆくのです。来訪者は、ここから館内展示を鑑賞し、やがて階下に移り、ミュージアムショップを見た後、エントランスに戻る・・・つまり、外部空間と内部空間が一体となったサーキュレーションをとっているのです。


 この「人の流れ=動線」・・・「緑豊かな森の中を散策する」という行為からすれば、むしろ「一般解」と呼ばれるものでしょう。我々がハイキングなどでフツーに経験する・・・その延長なのです。建築・ランドスケープデザインとは 決して「カタチ」だけにとらわれないもの・・・この「基本」を熟知しているデザイナーが活躍すればするほど 家・まち・環境は良くなってゆくことでしょうね。もう一度、行ってみたい場所です。


□ 追記 □

今回、「ねむの木こども美術館」を通じて「一般解」と「特殊解」という対語に関するコメントを記しました。文末になって考えるに、カタログ化された「商品としての住宅」に関しては、むしろ「アーキタイプ・プロトタイプ」という視点に立って比較コメントした方が しっくりくるかなぁと思った次第・・・1950〜1960年代のアメリカ西海岸に建てられた数多の「ケース・スタディ・ハウス」とともに良き時代を懐かしみます(って、私は そんなに懐かしむことができるほどの齢ではないですが・・・笑)。


ケース・スタディ・ハウス―プロトタイプ住宅の試み (住まい学大系)

ケース・スタディ・ハウス―プロトタイプ住宅の試み (住まい学大系)


 その中でもピエール・コーニッグ(Pierre Koenig)氏の生み出した「ケース・スタディ・ハウス #22」は建築・ランドスケープともに絶品の一語に尽きます。


Pierre Koenig 1925 - 2004: Living With Steel (Taschen Basic Genre Series)

Pierre Koenig 1925 - 2004: Living With Steel (Taschen Basic Genre Series)


 しかしながら・・・「アーキタイプ」、「プロトタイプ」という語を使いますと、ガンダムMK2とか百式とかエヴァンゲリオン零号機とか量産型とかの方面に話がシフトしてしまいそうなので、ま、おいといて・・・と させて頂きます(笑)。



(文:久保田正一



■参考URL

ねむの木学園 http://www.nemunoki.or.jp/

秋野不矩美術館 http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/lifeindex/enjoy/culture_art/akinofuku/index.htm

藤森照信研究室 http://tampopo-house.iis.u-tokyo.ac.jp/


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なかのひと


今回も お読みいただき ありがとうございました