15章 左官工事


 少しずつでは ありますが、着実に進行中の このコラム・・・今回は左官工事について記します。


 左官工事の「守備範囲」は、内壁工事・土間工事・外壁工事など多岐にわたるため、工事中に 様々な場面で登場する職種でも あります。

 内壁工事では、土や漆喰などを内壁に塗る作業を行います。最近よく使用されるのが「珪藻土(けいそうど)」と言われる土壁です。空気中の余剰水分やハウスシックにつながる浮遊物質を吸収してくれるため健康的な材料として人気が高まっています。珪藻土に限らず左官壁は手作業による温もりある表情と明かりをやわらかく反射させる効果をもった壁に仕上がるため、見た目にも癒しを与えてくれるなど、人に優しい室内空間を実現してくれます。

 次に、土間工事ではコンクリートを打設した後、鏝(こて)を使って平らに押さえて仕上げます。タイルを貼らない土間や駐車場など床の工事がこれに当ります。また、社寺や年月の経った家の玄関などでは、今のようにタイルではなく丸い小石が半分埋まったセメントの床になっているのを見かけると思います。これを「洗出し(あらいだし)床」といい、左官工事のひとつです。石を混ぜたコンクリートを打設した後、スポンジで表面を洗うように仕上げるのです。これにより、滑り止めの効果を発揮し、かつ 床の汚れを目立たなくすることができます。

 また、外壁工事では土・顔料・骨材・石灰等を調合したものを鏝で壁に塗りつける作業を行います。調合によって、さまざまな色や風合いを持った材料が出来上がり、それを鏝や櫛(くし)を使って さまざまなテクスチャに仕上げます。このようにして施工された塗り壁はひとつひとつが手仕事・・・とても温かみがあり、風情を感じる建物に仕上がります。

 手作業である左官工事は、複雑な曲面形状の建物にも対応できるというメリットがあります。基本的に「塗る材料」であるため、小さなひび割れや色ムラなどが懸念されますが、最近では曲げても割れない程の弾力性のある材料や、色・素材感が揃えた調合済の材料がメーカーから出ていますので、以前に比べて使い易く安心して採用できるようになりました。


 そもそも、運搬手段が発展していなかった時代、建物はその土地で採取できる材料で建てられてきました。壁には竹で編んだ「小舞(こまい)」という壁下地に その土地の土を塗りこみ・・・そのため、建物は地域的に同じような色で統一され、非常に風情ある町並みを形成してきたのです。また、土壁には耐火性や断熱性があるため、家財を守るため「蔵(くら)」に用いられてきました。また、蔵の壁で見かける 瓦と漆喰を使って さらに強度を高めた「なまこ壁」というものがありますが、これも左官工事によるものです。歴史ある地区でその町並みが保存されており、現在でも静岡県賀茂郡松崎町岡山県倉敷市をはじめ全国各地で その美しい風景を見ることができます。



(文:那須啓一郎



■参考URL
伊豆の長八美術館 http://www.izu-matsuzaki.com/cyouhachi/cyouhachi.html




今回も お読みいただき ありがとうございました。


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