国立新美術館−東京ミッドタウン 線の継承


 昨日は東京に行きました。夕刻よりミーティングが予定されていたため、そこに行く前の時間を有効に使っての空間体験です。前回は代々木〜目黒〜恵比寿と回りましたが、今回は乃木坂〜秋葉原人形町というルートです。自分で言うのもなんですが、最近は「建物の見学・視察」というよりも「地域・界隈の散策・空間体験」と言った方がふさわしい動きをしています。おかげで、私にとっての東京出張はタウン・ウォーキングと同義であり、「体力づくり」の場のようなものでして・・・日頃 デスクワークでエコノミー症候群をも心配したくなるような体をリフレッシュ・・・東京って健康的かも・・・です(笑)!


 もちろん注目は六本木エリアのビッグ・プロジェクト2件・・・国立新美術館東京ミッドタウンです。今回は、このエリアについて記してゆきましょう。


 東京メトロ千代田線 乃木坂駅から国立新美術館に・・・建築界だけではなく日本国民全ての注目を集める事となった黒川紀章氏の設計によるものです。ここは、少し前まで「東京大学生産技術研究所がある場所」として知られていた場所で、私も学生時代、修士論文の資料収集のために訪れた事を思い出しましたが、「こんな場所だったかな?」という驚嘆の念の方が先に立つ・・・そんな風景です。



 なめらかなガラスの三次元曲線の外壁全てにルーバーが設置されています。これはエッチング処理されたガラスを金物で吊り下げた庇のようなもので、外皮のいちばんの特徴となっています。ちなみに このルーバーは全て形状が違うとの事・・・この壁面形状にしてこのルーバーなのですが、今後のリペアの事を考えると国立の建築物として相当の覚悟をもって臨んだのだろうと察します。



 内部に入ると・・・今までに入った美術館の雰囲気とは少し違った感覚を得ました。驚いたのが騒音の少なさ・・・劇場や美術館のホワイエに生じる耳ざわりなノイズを感じないのです。なぜでしょう・・・理由は すぐ分かりました。床面のフローリングと壁面の木製ルーバーのおかげです。木製の無垢床は歩き心地も柔らかなもので、女性のヒールの足音も気になりません。また、壁に設けられた櫛の歯状のたて型ルーバーが騒音軽減に一役も二役もかっているのです。公共空間にあって この音響コントロールの感覚を味わえた事は たいへん参考になりました。また館内は床面から吹き出す空調システムが採用されており、ノイズの少なさと共に 普段とは違う空気の流れを体感する事ができました。



 この美術館は全て企画展・公募展に対して場所を貸し出すという「収蔵品を持たない美術館」というシステムをとっているようです。そのためでしょうか・・・従来の美術館に見られる公共スペースへの彫刻作品の配置が影を潜め、ホワイエには適度なスペースをもって椅子が並べられ、そこで来訪者がゆったりと座っていました。今まで見たどの美術館よりもホワイエ・通路にゆとりを感じます。また地階のミュージアム・ショップ脇のスワンチェアとエッグチェア、逆円錐上面にあるフレンチ レストラン ポール・ボキューズおよびそのウェイティング・スペースに並ぶセブンチェアを見る事で、日本における北欧系家具(特にアルネ・ヤコブセン氏 作品)の一般化を再認識しました。



 さて、先を急ぎましょう(笑)。国立新美術館を出て左に廻り込み、オープンしたばかりの東京ミッドタウンを目指します。



 ここで歴史を思い起こすならば・・・私が歩くこの通りは、かつて陸軍施設と防衛庁という2つの施設が位置した場所をつなぐ道(線)なのです。それが今、文化・芸術・商業のラインに書き直され、日夜 動線のトレースが繰り返されてゆくのです。今後 周辺の雰囲気も変わってゆくのでしょう。周囲には築50年は経とうかという木造住宅の密集地と1970年代前後のテイストをもった街区が隣接しています。しかし私にとっては これこそが子供の頃に感じた東京の風景です。頭の中に思い浮かぶランドスケープ(風景)は見る者によって違う事を実感しました。


 さて、東京ミッドタウンに到着・・・今回は自由時間がタイトである事と あまりに多くの見学客・花見客の多さにビックリした事でタワー・コンプレックスに入ることは早々に諦め(笑)、オープンスペースに さりげなく佇む「21_21DESIGN SIGHT」にアプローチしてみました。



 これは安藤忠雄氏設計のデザインギャラリーです。鉄筋コンクリートの背面壁から手前に倒れこんだ2枚の鋼板とその隙に在るガラス面によって構成されたこのギャラリーは いつもの安藤氏の作品よりも「地」に近い存在に感じます。メガスケールの建築群を前にした場合、その意味合いを強める事ができる・・・そんなメッセージが聞こえてきそうです。



 実は昨日、ここでトークセッションが開催されたようです(第一部:安藤忠雄氏+三宅一生氏、第二部:佐藤 卓氏+深澤直人氏+川上典李子氏)。そのせいでしょう、私が訪れた13時台のギャラリー周辺は たいへんな混雑模様・・・今回、私の東京ウォーキングも押し気味のスケジュールという事でギャラリーに入ることができず・・・次の場所へと移動となりました。なお、ミッドタウン内にはサントリー美術館もあります。国立新美術館六本木ヒルズ森美術館ともにアート・トライアングルを期待された六本木・乃木坂地区は見どころ満載です。これらは全て次回のお楽しみとしておきましょう。


(文:久保田正一



■参考URL

国立新美術館 http://www.nact.jp/

東京ミッドタウン http://www.tokyo-midtown.com/jp/

21_21DESIGN SIGHT http://www.2121designsight.jp/

黒川紀章建築都市設計事務所 http://www.kisho.co.jp/j_index.php



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今回も お読みいただき ありがとうございました